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二子玉川東地区再開発事業差止等請求事件訴状

当 事 者 の 表 示

別紙「当事者目録」記載の通り。

再開発事業差止等請求事件

訴訟物の価格 1,600,000円

貼用印紙額 13,000円

平成17年10月17日

東京地方裁判所 御中

原告ら訴訟代理人

弁 護 士 渕 脇 み ど り

他2名

請 求 の 趣 旨

1.被告は、別紙「再開発事業目録」記載の再開発事業を行ってはならない。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

目 次

第1 当事者

1 原告

2 被告

第2 事業の内容

1 本事業の概要

2 二子玉川東地区再開発

3 周辺道路整備(都市計画道路)

4 都市計画公園

第3 事実の経過

第4 本件再開発事業の違法性

1 都市再開発法違反

(1) 目的の違法性

@地権者の構成

A東急電鉄社員の発言にみられる本件再開発についての私利目的の本音

B東急グループの初動資金の拠出を約することによる保留床の先買いと独占

C東急電鉄の利潤追求戦略の先行

D東急不動産の詐欺的不動産売却行為の先行

(2) 私企業と行政担当者個人との密約により、既存の「健全なまちづくり」の理念の元の規制や都市計画に脱法的に違反した違法性

@1号2号違反の密約の先行

Aこれらの協定の問題点は

B上記2つの密約の存在は平成11年(1999年)7月まで10年にわたり、秘密にされていた

C3号違反

(3) 再開発組合設立認可申請手続きの違法性

@第1項について

A第2項

B第3項

C第4項

2 民法第709条の不法行為である

3 地方自治法違反

第5 本件再開発事業による重大な権利侵害

1 交通渋滞のさらなる悪化

(1) 本件地域周辺の幹線道路の渋滞の状況

@本件地域周辺の幹線道路

A本件地域周辺の自動車交通量

B本件地域周辺の渋滞の発生状況

(2) 自動車交通量の増加

@環境影響評価の将来交通量予測の方法の問題点

A駒沢通りをはじめとする周辺道路の整備計画(都市計画)

B幹線道路整備による潜在交通需要の顕在化

(3) 本件再開発地域周辺への影響

@周辺地域でも自動車交通量が増大

A二子橋への自動車交通の集中

(4) 本件再開発地域周辺における道路交通の危険性

@細街路の自動車交通量の増加

A本件地域の地形的特徴から生ずる危険

(5) 増加が予測される自動車交通の内容

2 大気汚染の悪化

(1) 本件再開発地域周辺の概要

@本件再開発地域周辺の地形の特徴

A幹線道路の現在の位置関係

(2) 現在の大気汚染状況

(3) 環境影響評価における大気汚染状況の予測の問題点

@バックグラウンド濃度の設定方法の問題点

A浮遊粒子状物質についての予測・評価の欠落

B予測地点の問題

3 東京急行二子玉川駅、東京急行田園都市線、東京急行大井町線の混雑と過密ダイヤによる鉄道輸送の危険性

(1) 現在の混雑状況

@二子玉川駅の乗降人員

A東京急行の運行ダイヤ

(2) 本件再開発による人口増加および集客の予測

(3) 予測される混雑

@二子玉川駅利用客の増加

A複々線化の問題点

Bダイヤ増発の危険

4 圧迫感

(1) 本件再開発計画の特徴

@周辺地域の特徴

A本件再開発計画

(2) 原告らが被る圧迫感

5 良好な景観の破壊

(1) せたがや百景

@百景選定の趣旨と経過

A本件再開発地域周辺のせたがや百景

(2) 地域風景資産

@地域風景資産選定の意義

A富士見橋

(3) 関東の富士見100景

(4) 世田谷区風景づくり条例

@本件地域の景観の特徴

A条例の制定

(5) 本件再開発計画による景観の破壊

6 眺望の途絶

(1) 本件再開発地域周辺における住宅の販売

(2) 本件再開発計画による原告らの眺望権の侵害

7 地下水涸渇や地盤沈下の危険性

(1) 本件再開発地域周辺の地質と本件再開発計画による地盤の掘削

(2) 地下水涸渇や地盤沈下のおそれ

8 災害時の危険性

(1) 地震による倒壊の危険

(2) 災害時の避難路や避難場所が確保されない危険性

9 関連事業による被害

第6 差し止め請求権の法的根拠

1 人格権

2 環境権

3 住民の「まちづくり参画権」

4 差し止め請求権と行政行為との関係

第7 結論

請 求 の 原 因

第1 当事者

1 原告

原告らは、別紙「再開発事業目録」記載の再開発事業地域(以下、「本件再開発地域」という。)の周辺に居住する住民及びその他世田谷区内に居住している住民である。

その内、原告4〜10,12〜20,23,26,27,61,64〜66らは、本件再開発事業の関連事業である、道路拡張計画(都道古川橋二子玉川線駒沢通り・補助49線)の拡張予定地内に不動産を有する地権者である。

2 被告

被告は、都市再開発法第8条1項、第11条のいわゆる市街地再開発組合であり、別紙「再開発事業目録」記載の二子玉川東地区再開発事業(以下、「本件再開発事業」という。)を行うことを目的として、平成17年3月4日に東京都によって設立認可されたものであって、本件再開発事業を行う施行者である。

第2 事業の内容

1 本事業の概要

被告組合は、本件再開発事業を行う目的として、以下のような趣旨を述べている(甲1)。

すなわち、「二子玉川は東京の西南部に位置し、多摩川と国分寺崖線に挟まれ、東急田園都市線、大井町線、国道246号線といった交通の結節点となってい」る。ところが、「二子玉川はこのような交通の要衝にありながら、二子玉川駅には十分な交通広場もなく道路の整備状況も不十分であり、公園についても未整備な状況にあ」る。特に「駅東側は老朽化した木造建築物が多く、地区の活性化が望まれてい」るが、「大規模な空閑地が有効利用されていない 状況となってい」る。そこで、本件再開発事業により、「二子玉川東地区について」、「大規模未利用地を活用した土地の合理的な高度利用と都市機能の更新を行うことにより、駅周辺の商業及び業務の活性化を図」るというものである。

しかしながら、本件再開発事業は、下記に詳述するように、もともと自然豊かな低層建築の連なる風致地区に、都心の繁華街や商業地域並の高層建築物を乱立させ、美しい景観や眺望を破壊し、人工的、商業的にこの地域にとって全く異質な「にぎわい」を創出しようとするものである。のみならず、被告組合は、本件において、公共の福祉目的によらずもっぱら一私企業の営利目的のみのために、周辺住民の権利を著しく侵害することについて認識しながら、意図的に都市再開発法の種々の点に違反する手続を強行し、違法な都市計画決定、事業組合設立認可を得て事業の施行に着手しようとしているのである。

本件再開発事業は、大きく分けて@二子玉川東地区の再開発、A周辺地域道路の整備(都市計画道路)、B都市計画公園の3つの柱から構成されている。そこで、以下でそれぞれの事業内容の概要を説明する。

2 二子玉川東地区再開発

(1) 被告組合は、二子玉川東地区再開発について、二子玉川を世田谷区内で下北沢、三軒茶屋に並ぶ「広域生活拠点」と位置づけ、適切な土地の高度利用や賑わいのある商業・業務機能の集積を図るとしている(甲2)。

(2) 本件で被告組合が施行する二子玉川東地区再開発の内容は下記の通りである(甲3、甲4)。

名 称 二子玉川東地区再開発地区計画

位 置 世田谷区玉川1丁目、2丁目、及び玉川3丁目各地内

目 標 本地区は、世田谷区の広域生活拠点として位置づけられており、都市基盤の整備と合わせて、駅周辺の商業及び、業務の活性化を図ると共に、大規模未 利用地を活用して、土地の合理的な高度利用と、都市機能の更新を行い、みどりと水の豊かな自然環境と調和した、安全で、快適な、居住機能を営む、複合市街地の創出を図ることを目的とする。

建築物(全7棟)

@商業、業務棟 地上10階建H55m

A業務棟 地上18階建H82.5m

B商業棟 地上4階建H29m

Cホテル、業務棟 地上31階建H137m

D住宅A棟 地上30階建H102m

E住宅B棟 地上46階建H151.1m

F住宅C棟 地上30階建H102m

*DないしFの戸数は合計約950戸

施行区域面積 約11.2ヘクタール

建築敷地面積 約38,400平方メートル

(3) この二子玉川再開発事業の計画は、二子玉川駅ビルを中心とした1街区、超高層ホテル・超高層商業棟を中心とした2街区、超高層マンションを中心とした3街区からなるものである。具体的な建築計画は下記の通りである(甲3)。

@ T街区

(@)T−a街区

敷地面積 約3,000平方メートル

延床面積(容積対象面積) 約17,900平方メートル

最高建築物高さ 約45.7メートル

主要用途 商業・業務

(A)T−b街区

敷地面積 約1,3500平方メートル

延床面積(容積対象面積) 約88.700平方メートル

最高建築物高さ 約82.5メートル

主要用途 商業・業務・駐車場

駐車場台数 約200

A U街区

(@)U−a街区

敷地面積 約27.900平方メートル

延床面積(容積対象面積) 約142.500平方メートル

最高建築物高さ 約137.0メートル

主要用途 商業・業務・駐車場・ホテル(客室数約200室)

駐車場台数 約550

(A)U−b街区

敷地面積 約3,500平方メートル

延床面積(容積対象面積) 約8,000平方メートル

最高建築物高さ 約17.0メートル

主要用途 商業・業務・駐車場

駐車場台数 約200

B V街区

敷地面積 約25,400平方メートル

延床面積(容積対象面積) 約94,000平方メートル

最高建築物高さ A棟約102.0メートル

B棟約151.1メートル

C棟約102.0メートル

主要用途 商業・駐車場・住居(住居戸数約950戸)

駐車場台数 約850

なお、この事業計画に伴い、同事業の対象とされる地区は、その容積率の最高限度を、従来500%、300%、200%とされていたものを、T− a 街区600%、T− b 街区660%、U− a 街区520%、U− b 街区300%、V街区370% と大幅に増加させた。

3 周辺道路整備(都市計画道路)

(1) 被告組合は、周辺道路の整備について、二子玉川東地区周辺の交通をスムーズに処理する道路ネットワークを整備するとともに、交通広場などの交通結節機能を強化するものとしている(甲2)。

(2) 具体的には、下記のような幹線道路及び区画街路の拡幅あるいは新設を行うものである(甲5、甲6)。

@幹線道路

・放射4号線(国道246号)

→幅員15.0m(約160m延長)

・補助49号線(駒沢通り)

→幅員16.0m(約940m延長)

・補助125号線(多摩堤通り)

→幅員25m(一部27.5m)(約1,040m延長)

・補助329号線(新設道路)

→幅員16.0m(約850m延長・新設)

なお、玉川1丁目及び玉川2丁目各地内に面積約5,800平方メートルの交通広場を設ける(新設)

A区画街路

・区画道路1号

→幅員6.0m(約50m延長)

・区画道路2号

→幅員8.0m〜13.0m(約120延長)

・区画道路3号

→幅員8.0m(約30延長)

・区画道路4号

→幅員7.0m(約60m延長)

・区画道路6号

→幅員12.0m(一部16m)(約510m延長)

・区画道路7号(上野毛通り)

→幅員12m(一部15m)(約530延長)

4 都市計画公園

(1) 被告組合は、二子玉川公園を再開発事業区域と連続させ一体化することで、安全で安心かつ快適な歩行者導線の確保を図るために、二子玉川公園の区域及び面積を変更し、また地区周辺の公園の適正な配置と利用を図るため、上野毛2丁目公園の区域及び面積を変更したと述べている(甲7)。

(2) 具体的には、下記の通りである。

@二子玉川公園

名称 第4.4.6号 二子玉川公園

位置 世田谷区玉川1丁目及び世田谷区上野毛2丁目各地内

面積 6.3ヘクタール(変更前6.5ヘクタール)

A上野毛2丁目公園

名称 世田谷第2.2.43号 上野毛2丁目公園

位置 世田谷区上野毛2丁目各地内

面積 0.92ヘクタール(変更前0.68ヘクタール)

第3 事実の経過

1 上記再開発に関するこれまでの事実の経過は下記の通りである。

2 昭和8年、同開発対象区域の一部が、旧都市計画法(大正8年4月5日法律第36号)10条2項に基づき、風致地区に指定され、その緑地の保全が図られることになった。

3 昭和32年、民間の二子玉川遊園地が、旧都市計画法第11条の2に基づき二子玉川公園として都市計画決定された。その後、時代の趨勢により二子玉川遊園地は閉鎖され、展示場及びスポーツ施設として再利用されていた。

4 昭和57年、本件再開発に関する検討が初めて開始され、昭和62年には、世田谷区東地区基本計画が発表され、被告組合の前身である二子玉川東地区再開発準備組合が設立された。

5 昭和61年11月15日、世田谷区助役(当時)佐野公也と東急電鉄株式会社専務取締役蝦名忠武との間で、「二子玉川東地区及び三軒茶屋太子堂地区の再開発事業の遂行に、行政、企業双方はそれぞれの責務と能力の範囲で、本事業の完成まで一致協力最大限の努力をしていくことを約す。」という覚書が作成された(甲8)。また、同日、世田谷区と東急電鉄との間で、下記の覚書も作成された(甲9)。

(1) 再開発事業は公園事業と一体として計画、実現するものとする。

(2) 昭和63年の用途地域見直しの時期と整合させ、次のことについて双方で努力する。

@ 二子玉川公園と隣接地の一部の用途変更

A 都市計画公園・緑地の指定替え

B 道路等基盤整備のための整備計画の策定

(3) 公園の事業化にあたっては、土地所有者の協力を前提とする。

6 また、昭和62年10月31日には、世田谷区と東急電鉄及び東急不動産との間で、二子玉川公園の公園指定区域変更に関し、下記の覚書が作成された(甲10)。

1.公園指定の区域変更は、市街地再開発事業の都市計画決定に先行し、昭和63年度に予定されている用途地域等の一斉見直しにあわせ変更の手続を進める。

2.市街地再開発事業は、世田谷区が昭和62年3月に作成した「二子玉川東地区再開発基本計画」を尊重して実施し、この計画で予定された「公園的公開空間」の位置・構造及び形態については、東京都並びに世田谷区と協議の上、市街地再開発事業手法によって整備する。

7 さらに、昭和63年7月29日に世田谷区長の大場啓二(当時)と東急電鉄株式会社社長横田二郎(当時)、東急不動産株式会社の社長安藤哲郎の三者による、「二子玉川公園計画に関する協定」が締結された(甲11)。この協定書では、世田谷区玉川1丁目内の土地(本件都市計画公園二子玉川公園相当部分)をA地区とB地区とに分け、A地区(東急自動車学校の再開発区域寄りの部分・29,300平方メート ル)を東急建設及び東急不動産が世田谷区に無償譲渡する、B地区(33,500平方メートル)については今後、協議の上世田谷区が買収するという取り決めがなされた(甲11)。

8 そして、平成元年6月16日、従来都市計画公園とされていた二子玉川公園区域の一部を削除し、多摩川緑地であった区域(世田谷区玉川1丁目・上記協定書A地区か?)を公園として追加するという内容の都市計画決定の変更がなされた。この都市計画の変更により、本件二子玉川東地区再開発対象地の一部について、都市計画の規制が取り払われ、本件再開発の前進に大きく道を開くことになった。

9 平成3年3月27日、準備組合は、東急電鉄及び東急不動産との間で、再開発事業実施のための初期資金を東急電鉄と東急不動産が準備組合に代わって調達し、業務契約を締結し、支払を行うものとし、この資金は準備組合の事業費に算入し、本件再開発事業が実施される場合には、保留床の一部と取得金額とを相殺する旨の合意をした。

10 また同年、準備組合は、本件再開発事業の施設原案を完成させ、平成10年に本件再開発計画案件を東京都に提出した。

11 平成11年に、上記5,6,7の覚書、協定書の存在・内容が初めて地権者、区民、区議会に公表され、明らかにされた。

12 平成12年5月、本件再開発計画は東京都都市計画審議会(都計審)の審議にかけられた。この都計審の審議では、本件二子玉川東地区再開発対象地域の「75%の地権者が賛成」していると説明されており、都計審の議事録にもそのように記載されている(甲4)。そして、同年6月26日に、都計審での審議に基づき、本件再開発事業の施行区域、整備を行う公共施設(道路、公園等)や建物について都市計画決定がなされた。

先の「75%の地権者の賛成」というものは、この都市計画決定の根拠の一つとされた。

13 平成16年6月11日、二子玉川再開発準備組合は「地権者の3分の2の同意が得られた」として「事業認可申請」を世田谷区に提出し、また、同月17日には認可権者である東京都に組合設立・事業認可申請書を提出した。

そして、準備組合が組合設立・事業認可申請を行ってから約9ヶ月経った平成17年3月4日、東京都は、二子玉川東地区再開発事業の組合設立・事業計画を認可した。

第4 本件再開発事業の違法性

1 都市再開発法違反

(1) 目的の違法性

本件再開発区域(全施行面積11.2 ha )の85%超の広大な敷地の所有権者である訴外東京急行電鉄株式会社(以下東急電鉄という)及び東急不動産株式会社(以下東急不動産という)という民間私企業の私的な経営戦略実現を主たる目的とするものであり、「他の地権者や地域住民の総意によるまちづくり」とはいえず、目的に何らの公益性がない。

これは 都市再開発法第1条 が定める目的「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、 都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もって公共の福祉に寄与することを目的とする。 」に反するものである。

@地権者の構成 被告組合の組合員の構成)

再開発地域の土地全約11.2 ha の85%以上の土地の所有者が東急電鉄および、東急不動産である(甲12 計算表 東京都都市計画代一種市街地再開発事業の決定(東京都知事決定)(二子玉川東地区)三校図書素案土地所有者リスト、添付)。

A東急電鉄社員の発言にみられる本件再開発についての私利目的の本音

平成10年(1998年)6月10日原告保坂が二子玉東地区開発準備組合事務所において対応した東急電鉄社員訴外小池大輔氏にたいし、本件再開発事業についての疑問点を述べたところ、同氏は以下の通り回答した。

「1,現在、行政のお墨付きをもらうべく努力中だ。

2,開発計画の建物のパンフレットは「見せ絵」でしかなく、準備組合に参加している人達の合意を得たものではない。何もないのでは、行政の納得をえられな いのでとりあえず作成したものにすぎない。

3,補助金あってのこの事業、補助金がなければ、この計画は成り立たない。道路の拡幅は世田谷区が責任を持ってもらうことになっている。いくらかかるか私たちには関係のないことだ。

4、補助金をどの程度得られるのか?計画の明細が確定しない現在未だ検討がつかない。

しかし、この「事業計画」は「都市開発法」という法律に従って行う以上、公的資金の提供を受けるのは当然すぎるほど当然である。

5、「建物の保留床」を売ることによって建設資金を充当することになるが、「保留床」が完売できない時は、この事業計画は東急グループの主動で、行う以上、東急が責任を持つことになるだろう。

6,地域住民や区民から仮に疑問や反対の声があがっても、それはどこにでもあることで、全く意に介さない。基本的なことは自分達の土地をどう活用するかは全く自由、他人からとやかく言われる筋合いではない、と思っている。

7,補助金を受けることに何のためらいもない。この計画はそもそも街の美観、防災、防火、そしてそれ街の活性化をめざす自治体の方針に協力するわけだから、公的な資金を大いに投入してもらいたい、と思っている。

8、これまで我々は、補助金を受けるという恩恵にあずかったことがない。そのようやく巡りきたこのチャンスを逃がす訳にはいかない。それがたとえ、税金であっても、自治体が金を出すというのだからありがたく受け取る。そのことが区の財政を圧迫することになったとしても自分達の責任ではない。」

この発言には東急グループが本件再開発をやる目的は「まさに行政から補助金名目下に公的資金を投入させ、地域住民や、区民の権利を省みず、他人からとやかく言われても無視して、自己の土地の最大限の私的活用を追求することである。」この発言には東急グループの本音が吐露されている。

本件再開発が再開発都市法の定める公共目的に反する一私企業の利潤追求目的に偏った再開発であることが明白である(甲13 保坂作成メモ)。

B東急グループの初動資金の拠出を約することによる保留床の先買いと独占

平成3年3月27日(1991年) 被告の前身である二子玉川東地区再開発準備組合は、再開発事業実施のための初動資金を東急電鉄と東急不動産が準備組合に代わって調達し、業務契約を締結し、支払をおこなうものとし、この資金は本組合の事業費に算入し、本事業が実施される場合には、保留床の一部の取得金額と相殺する旨を合意した。これは、資金調達名目下に、保留床を東急不動産が優先取得することを可能とするシステムである。

本件事業は、先述した通り、そもそも対象地の85%以上を東急グループが所有していることで、その目的が一私企業の利潤追求目的に偏重するものであることに加え、都市計画決定前に、このような覚書を結ぶことにより、本事業の権利床の中に、東急グループが所有する割合はますます高くすることになり、本件再開発事業により生み出される権利を東急グループが独占し、その売却益を取得することを構造的に約束しているのである(甲14 初動資金の調達に関する覚書の取り交わしについての回答と覚書)。

なお、既に平成12年までに初動資金として金538,038,500円が拠出されている(甲15 2003,7,3二子玉川再開発準備組合第22回総会次第)。

C東急電鉄の利潤追求戦略の先行

東急電鉄は本年3月4日に再開発事業組合の設立認可が下りるや否や、自社のホームページ上において、本件再開発事業を、まさに自社事業であるかのように宣伝している。

そこに同時に宣伝されている戦略はまさに、「えんどう豆構想」と銘打ち東急沿線の駅とその周辺をハード面から開発し、ソフト面から事業の連携を図り、世田谷地区は沿線のイメージリーダーとしてブランド価値の更なる向上を目指していることが記載されている。そこに見えるのは、地域住民の手による真の街の活性化というよりも、地域の弱小地権者を排除して、ブランド価値アップに資するイメージ作りのための建物「ハード」を造り、地元住民権利も無視して他地域からの人の流入を作ろうとする企業戦略である。本件再開発はまさにかかる利潤追求戦略の一環に他ならないのであって、公益目的のための再開発事業制度を濫用するものに他ならない (甲16 東急電鉄 HP 二子玉川東地区代一種市街地再開発事業、エリア戦略の推進)。

D東急不動産の詐欺的不動産売却行為の先行

一方で、東急不動産は、平成12年に本件再開発決定がでた後に国分寺崖線の丘陵から本件再開発地域を望み、現在は多摩川越しに富士山を望める場所に「上野毛 FIRSTPLACE 」というマンションを販売した。その際、同社はみずから本件地域が従来から豊かな自然に恵まれ、国分寺崖線から、多摩川の夕日や、多摩川越しの富士山の眺望が望まれる地域であり、「品格と趣を脈々と継承する静謐の地」であるとして本来の本件地域の特質を最大の広告文句としている。

さらに 現在の美しい眺望は「美観を約束された聖域」であるとして、本件再開発事業により、当該マンションからの多摩川方向への美しい景観が大きくさえぎられてしまうことについてはまったく説明せず、再開発事業による景観の変化の可能性を秘匿している(甲17 「上野毛 FIRSTPLACE 」というマンション販売用パンフレット)。

東急不動産株式会社は前述のように本件再開発事業を主導的に押し進め、本件地域にそぐわない、巨大な高層ビル(最高46階建て地上151.1 m )を7棟建設し、ここに言う眺望や美観を打ち壊し、みずからその「品格と趣を脈々と継承する静謐の地」の特質を打ち壊そうとしながら、この計画を秘して詐欺的な営業行為を押し進めた。その利潤追求に偏した姿勢は、企業としての社会的責任を省みないものである。

このような企業体質は本件再開発事業にも色濃く反映されている。

(2) 私企業と行政担当者個人との密約により、既存の「健全なまちづくり」の理念の元の規制や都市計画に脱法的に違反した違法性

私企業の利益実現のために東急グループが世田谷区の一部の個人との密約のもと、再開発事業という枠組みを利用し、反対地権者の権利、意思を無視し、本来の「まちづくり」の観点から、従来行政が地域を規制していた、風致地区指定、都市計画としての公園計画、建築基準法による、用途制限等の種々の規制を変更させ、再開発計画決定に先行して規制を取り払った。

これは 都市再開発法第4条2項各号 に反している。同条は「第1種再開発事 業は次の各区号に従って定めなければならない。」として次のとおり定めている。

道路、公園、下水道その他の施設に関する都市計画が定められている場合においてはその都市計画に適合するようにさだめること。

その区域が、適正な配置及び規模の道路、公園その他の公共施設を備えた良好な都市環境のものとなるように定めること。

3 建築物の整備に関する計画は、市街地の空間の有効な利用、建築物相互間の解放性の確保及び、建築物の利用者の利便を考慮して、建築物が都市計画上 その地区にふさわしい容積、建築面積、高さ、配列、及び用途構成を備えた、健全な高度利用形態と なるように定めること。

4 建築敷地の整備に関する計画は 前号の高度利用形態に適合した適正な街区 が形成されるように定めること。」

@1号2号違反の密約の先行

区長ないし、助役という行政制に責任を持つ立場にある個人が、都市再開発法の手続き前に、議会の承認も経ずに、多額の公金の支出が予想される事案に付き、単独の個人として、区民に秘密裏に合意を結んでいたことが判明した(甲18 都計審議事録、甲19 世田谷区用途地域地図)。

(1) 昭和61年(1986)年11月15日

「覚書」の作成

作成者 世田谷区助役 佐野公也

東急電鉄株式会社専務取締役蝦名忠武

「二子玉川東地区及び三軒茶屋太子堂地区の再開発事業の遂行に、行政、企業双方はそれぞれの責務と能力の範囲で、本事業の完成まで一致協力最大限の努力をしていくことを約す。」

同年同月 作成者 世田谷区都市整備部長 川瀬益雄

財団法人 世田谷区都市整備公社

常務理事 矢崎達哉

東急電鉄株式会社 ビル事業部

市街地再開発部長 廣田穰

「再開発事業は公園事業と一体として計画、実施するものとする。

昭和63年度の用途地域見直しの時期と整合させ、次のことについて双方で努力する。

@ 二子玉川公園と隣接地の一部の用途変更

A 都市計画公園・緑地の指定替え

B 道路事業基盤整備のための整備計画の策定

公園の事業化にあたっては、土地所有者の協力を前提とする。」

(2)昭和62年10月31日

作成者 世田谷区助役 佐野公也

東急電鉄株式会社 専務取締役

小林啓作

東急不動産株式会社 取締役社長

安藝哲郎

「公園指定の区域変更は、市街地再開発事業の都市計画決定に先行し、昭和63年に予定されている用途地域等の一斉見直しにあわせ、変更の手続きを進める。 略」

(3)昭和63年 (1988年)年7月29日

「二子玉川公園計画に関する協定」の締結

作成者 世田谷区長 大場啓司

東急電鉄株式会社社長 横田二郎

東急不動産株式会社社長 安藤哲郎

略 昭和64年4月に予定している用途地域の見直しの時期に合わせて、関係機関と調整の上、現行公園区域の変更を図るため、下記のとおり協定する。

1 公園面積は6.28 ha とする

2 A地区(約29,300u)については世田谷区に無償譲渡する。

3 B地区(約33,500u)は世田谷区が買収する。

4 東急自動車学校の移転に関わる諸問題については世田谷区が協 力する。」

Aこれらの協定の問題点は

第1に 東急グループが都市計画公園の都市計画決定という縛りを受けていた自社所有の土地を再開発事業地域として規制をはずして取り戻し、再開発の対象地区とするために、計画公園の予定地を駅から遠い地域に変更し、一部を世田谷区に無償譲渡し、残地は世田谷区が買い取って、公園を建設するとすることで、計画決定の変更を可能とした。

(これにより、二子玉川公園は当初の面積より、0.2 ha 狭くなったが、上野毛2丁目公園を0.24 ha 広くすることで、つじつまを合わせようとしている。しかしこの二つの公園は地理的に距離も高低差もある別地域の公園であり、単なる数字あわせのまやかしである。)

さらに、隣接地に区が公園を建設するという計画が、さも本件再開発の「自然環境との調和」という目的に添っているかのようなイメージ作りに貢献したが、その財源は区税に委ねられており、実現時期も不明である。

「本件再開発事業と公園事業は一体として、計画、実現する」との協定をむすびながら、現状では上記公園予定地の譲渡も、買収も実現しておらず、実際には、都市計画公園の決定を棚上げにして、再開発事業のみを単独先行しようとしている。ここにも住民に対する二重のまやかしがある。

第2に、本件再開発事業により、周辺地は後述のように種々の権利侵害(日照、風害、電波障害、地盤への影響など、)を受け、ひいては土地の財産的価値が減ずる恐れも大きいが、東急にとっては本件事業に隣接する広大な土地を、世田谷区に安定した価格で売却できる訳である。東急はすなわち、本件再開発による利益のみを最大限享受しつつ、隣接地所有者としての不利益を回避する道を事前に確保とするという不公正な目的を有している。

B上記2つの密約の存在は平成11年(1999年)7月まで10年にわたり、秘密にされていた(甲20 (仮称)二子玉川公園計画に関する協定覚書等について)。

これは本件再開発が 世田谷区民、地域住民、他の地権者、区議会の意思によらないその利益実現のためでない、再開発であることの何よりの証明で ある。

世田谷区民の利益のための計画であれば、秘密にする必要はなく、基本的には公金の重大な支出をともなう計画であるから、事前に住民、議会の理解を得るべきである。

はじめに計画ありき、はじめに一私企業の利潤追求に偏った不当な目的の計画であり、区との密約による脱法的手法により、2号違反の決定内容が推進されようとしている。

C3号違反

本件再開発事業は本件再開発事業予定地区の特質からみて、まったく異質の空間を創出しようとするもので、到底3号が予定する「その地区にふさわしい容積、建築面積、高さ、配列、及び用途構成を備えた、健全な高度利用形態」の計画とはいえない。

本件再開発予定地区及びその周辺の地域的特質

本件再開発地域及び、その周辺は古来からの多摩川と国分寺崖線に囲まれた水と緑の豊かに地域である。建築基準法上も従来から、広範囲にわたって風致地区としての制限を受け、第1種低層住宅専用地域として、広い空が確保され、多摩川越しに富士山を望める遠景をさえぎるものはない。住民にとってこれらの町並みや自然は憩いの場所であり、これらの落ち着いた静かな環境に憩いを求めて、散策やハイキング、花見、花火大会など四季折々の余暇を楽しむため、遠方から訪れる人々もいる。

これらの地域性は世田谷区の種々の条例によっても厚く保護されている貴重な地域のかけがえのない財産である。(後出世田谷区各種条例関係資料)

本件再開発事業はその目的として「広域生活拠点として安全で魅力溢れる活気ある街作り」を上げ、「みずとみどりとにぎわいを」をうたい文句としている。しかし、本件再開発はこのような自然溢れる空間に、突如六本木ヒルズに匹敵する巨大な高層ビル(最高46階建て地上151.1 m )を7棟も建設しようというものである。

本件再開発事業は、この自然豊かな低層建築の連なる風致地区に、都心の繁華街や高度の商業地域並の高層建築物を乱立し、美しい景観や眺望を破壊し、人工的、商業的に地域にとってまったく異質な「にぎわい」を創出しようとするものである。地域の人口や文化歴史を無視して、膨大な容積の箱(高層ビル)を建築したからといって直ちに「にぎわい」が創出されるものではなく、仮に何らかの人の流れが生まれたとしてもかかる「にぎわい」は、この地域のみずとみどりとは調和せず、むしろこれを破壊するものである。

(3) 再開発組合設立認可申請手続きの違法性

本件再開発事業はこのように本来の再開発事業としての理念に反し、当該地区の地権者、住民、の意思を無視し、再開発都市法にも違反し、世田谷区との密約によって脱法的手法により強行に押し進めてきたため、基本的に地域の要求と乖離しており、その矛盾が次第に露呈してきた。

本件再開発事業にあたり、再開発組合の認可にあたっては 都市再開発法第17条により同条各号に該当しないことが必要であるが 、本件再開発事業はこれに反している点で違法である。

申請手続きが法令に違反していること。

2 定款又は事業計画若しくは事業方針の決定手続きが又は内容が、法令に違反していること。

3 事業計画又は事業方針の内容が、当該第1種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業期間が適切でないこと。

4 当該第1種市街地再開発事業を遂行するために必要な経済的基礎及びこれを適格に遂行するために必要なその他の能力が十分でないこと。」

@第1項について

都市計画決定を得るにあたっての地権者、東京都に対する準備組合の、詐欺的手法

(@)東京都に対し、都市計画決定を求めるに際し、何らの文書の裏付けなく、所有者と、借地権者の75%が賛成していると報告した点。

平成12年5月都市計画決定が審議された、都市計画審議会議案 資料では、「土地の所有者と、借地権者の75%が賛成していると理解しているという東京都の認識が記載されていた。しかし、この点に付き、根拠となる文書につき、平成15年7月3日原告が東京都に情報公開を求めたところ、東京都はかかる文書は存在しないことを回答した(甲21 非開示決定通知書)。

再開発事業に就き、再開発都市計画決定がでれば、個人の地権者は自己の財産権について、一定の制限を受ける結果になるのであるから、計画決定にあたり、所有者及び、借地権者の総意が事業を望んでいることは重要な要件である。それにも関わらず、文書による裏付けを提出せず、口頭でしか報告していないというのは、真実は75%が賛成が達成されていなかったという可能性が高い。自己の権利に影響のある重要な意思表示であるから、文書をもって確認するのは当然のはずである。

(A)地権者に対する説明

準備組合から本組合に移項することの合意を得るに際しての説明

この段階で、組合設立認可申請に向けて、地権者の同意を得るにあたり、同意することを拒否している地権者に対し、「ここでいう同意はあくまでも定款と事業計画についての同意となりますので、みなさんのご資産の権利変換内容を確定するものではありません。モデル権利変換などを基にして、組合設立後も平行してご説明を行いながら、今後さらに精査していく予定です。」と説明し、あたかも、権利変換内容についてはまだ充分に地権者の意思が尊重され、自由処分の余地があるかのような誤解を与える説明をし、真に、本件再開発組合の設立に同意しない地権者からも、不正確な認識のまま、設立申請にに同意させたのである。その手法は欺罔によるもので違法である(甲22 平成16年1月19日付け準備組合会報)。

現実に、本日現在で、既に本年2005年3月4日の設立認可決定から7ヶ月が経過しているが、地権者の権利変換手続きはほとんど進 行していない。これはそもそも本件再開発事業が、地権者達にとっても真にその利益に資するものではなかったことの証明である。本件再開発事業は、設立認可申請にあたり、形式的に地権者の合計の3部の2以上の同意が整っていたとしても、実際には準備組合から地権者らに正確な説明が成されていなかったために、具体的な事業の遂行にあたり、地権者は自分の権利の処分について賛同していない結果であり、本件再開発事業の最も本質的な矛盾が露呈したといえる。

A第2項

本件事業計画内容は後述のように原告らの権利を侵害するものであり、違法である。

さらに本計画決定にあたって平成11年2月1日以降、1762通の反対意見が出された。また、平成11年4月8日に世田谷区玉川区民会館で行われた公聴会では、本件再開発事業により侵害される権利につき、10名の公述人全員が合理的な裏付けに基づき、本件再開発事業の権利侵害の深刻さ、違法性を述べているにも拘わらず、これに対する何らの効果的な回答のないまま、かかる被害の発生を認識しながら、あえて事業を遂行しようとしていることは極めて悪質である。そこには原告ら住民の権利侵害についての故意又は重過失があるのみならず、本来再開発手続きにおいて最も重視すべき、周辺住民の理解を得られていない(甲23 第144回東京都都市計画審議会付議予定案件に係る意見書の要旨の提出について,甲24 東京都二子玉川東地区第一種市街地再開発事業及び東京都市計画道路幹線街路補助線街路第125号線建設事業の環境評価書案に係る公聴会記録)。

再開発事業がそもそも公共の福祉に寄与することを目的にする以上、公聴会に表明された本件再開発事業による権利侵害の深刻さについてはそのような結果を招かないように適正な事業計画の変更手続きがとられるべきである。住民のうける権利侵害については、平成12年の都計審でも議論になっている(甲18)。

B第3項

本件設立認可はUーa街区を除いている点で、当初の事業計画日、及び事業基本方針に適合しないものとなっている。本来は事業計画そのものの変更決定を得て、なすべきである。

また、その事業期間もUーa街区の事業計画の練り直しが必要となった現在、完成時期の目途すら立たない状況であり、再開発事業としての事業期間も適切とは到底いえない。

被告は平成12年の都市計画決定に違反し、今回は本件再開発事業のUーa街区(店舗、事務所、ホテル、駐車場予定、建築面積27,890u)の事業を白紙に戻し、その余の地区の再開発のみにつき、本件組合設立を申請した。この計画変更を余儀なくされたのは本件再開発事業が民間の一私企業の利潤追求行為であったことから、「バブル崩壊後の経済情勢の変化から、当初の計画通りの遂行が不可能となったため」である。本質的には、需要の見通しの誤りにより、採算・資金調達等経済性に破綻を来たし、従来の計画通りの施工が不可能となったのである。

被告の前身である準備組合の総会資料によると、次のとおり説明されている。「今までU−a街区の施設計画を進めてまいりましたが、昨今の社会、経済情勢は大きく変化してきています。このため、大規模な事務所・ホテル計画であるU−a街区については、都市計画決定案を基本とするものの、一部内容や規模について、慎重にに検討する必要がでてまいりました。

中略

このため、仮にひとつの組合で事業を進めますとU−a街区の計画が確定した段階で、もう一度全体の事業計画や権利変換の変更手続きが生じてしまいます。この手続きの変更には、かなりの時間を費やし、結果として全体の完成が遅れてしまうことになります。」というのである(甲25 二子玉川東地区再開発準備組合第23回(臨時)総会 等)。

このように異例の計画内容の本質的変更を必要とする事態は、本件再開発の内包する違法性、矛盾が露呈したものであったにも関わらず、準備組合はこの違法性を覆い隠し、組合設立認可申請をした。

C第4項

本件設立認可がU−a街区を除いている理由は、準備組合も自認するように、経済的な裏付けに関する不安である。

既に詳述したように、本件計画はそもそも一私企業の遊園地廃園にともなう、広大敷地の再利用のために、再開発事業の態様を借りて押し進められた行政も加担した利潤追求偏重型権利侵害違法行為である。しかも、バブル期の経済状況を念頭に右肩上がりの利潤追求が可能であるとの前提に計画された。しかしながら、現在の経済状況の変化により、事業の利潤の見通しが狂い、被告にはかかる行為を遂行する経済的基礎及び能力のいずれもなくなったことを自ら認めるものに他ならない。

東急電鉄の平成17年3月の「有価証券報告書」では

(6) 大規模プロジェクトについて

前略 不動産業においては、これに合わせた渋谷駅周辺の開発や、当社沿線のたまプラーザ、二子玉川等において大規模な開発事業に取り組んでいく方針であります。しかしながら、これらの事業には多額の投資を必要とするため、今後これらの事業を取り巻く環境の変化、対象地域における人口や経済状況等の変化によっては、これらの計画が予定通り進捗しない場合や、想定した収益や期待した効果を生まない可能性もあり、そのような事態にいたった場合、当社グループの業績や財政状況に悪影響を及ぼす可能性もあります。」

と記載している(甲26 東急電鉄の平成17年3月の「有価証券報告書」)。

かかる合理性、公共性を欠く利潤追求型大型再開発事業は、根本的な矛盾から、全事業の遂行が困難になり、当面U− a 街区をはずして施工せざるを得なくなったのである。

そのことの意味を真に判断すれば、本件再開発事業は一体のものとして平成12年の都市計画決定通りの事業遂行が不可能となったのであり、本件再開発組合の設立認可は同法第17条反にし、決定すべきではない事案である。

2 民法第709条の不法行為である

再開発事業による住民の権利侵害という違法性

その結果、目的に公益性がないだけでなく、自然破壊、大気汚染、景観、眺望の破壊など等地域住民の権利を著しく侵害する「まちづくり」の理念に反する事業内容となっている。 原告らに対する重大な権利侵害は民法709条の不法行為にあたる。

尚、この権利侵害の内容は次節「第5 本件再開発事業による重大な権利侵害」の項にて詳しく論ずる。

これらの被害は原告らの受忍限度を著しく超えるものであり、一旦事業が完成してしまうと、原告らは回復しがたい損害を被る。

3 地方自治法違反

莫大な税金投入という納税者としての住民の権利侵害という違法性

住民のしかも、かかる違法な私的利潤行為のために多額の税金からの補助金が予定されており、地域住民のみならず、原告らの広く世田谷区民としての納税者の権利が侵害されている。そして一方、被告は、種々の減税措置や、有利な融資の利用も可能になっている。本件再開発事業及びこれに関連する都市計画公園、都市計画道路の事業には総額700億円にのぼる世田谷区の公金の支出が予定されている(甲27 平成11年1999年3月10日二子玉川東地区市街地再開発事業の事業費について、甲28 同年3月 二子玉川東地区再開発事業の事業費について)。

ちなみに世田谷区の平成17年度の以年間の一般会計予算は2,087億1,400万円である。本件事業に支出予定の金額はこの約3分の1にものぼり、それがいかに区民にとって不相応に多額であるかは明白である(甲29 世田 谷区平成17年度当初予算概要)。

前述のような本件再開発事業の本質、違法性を鑑みる時、このような事業のためにかかる高額な税金を支出することはまさに、違法、不当な支出である。原告らは世田谷区に対して、かかる高額な税金の投入を阻止するよう働きかけており、今後は 原告らは別途地方自治法第242条により、世田谷区に対して、別途住民監査請求を予定している。 かかる公金の違法な支出をともなう、本件再開発事業は原告らの納税者としての権利も著しく侵害するものである。

世田谷区実施計画によれば、平成18年度、同19年度もそれぞれ本事業についての予算が予定されている(甲30 世田谷区実施計画)。

第5 本件再開発事業による重大な権利侵害

本件計画は、原告ら周辺住民に重大な権利侵害を生ずるおそれのある計画である。

1 交通渋滞の更なる悪化

(1) 本件地域周辺の幹線道路の渋滞の状況

@ 本件地域周辺の幹線道路

@ 本件地域は、東京都から神奈川県へ通じる2本の国道、国道246号(玉川通り)と国道466号(第3京浜道路・有料道路)に挟まれており、国道246号は二子橋が、国道466号は多摩川橋が多摩川に架橋されている。

また、国道246号は瀬田交差点において国道466号と交差しており、瀬田交差点から玉川インターに至るまで区間は環状8号線の一部となっている。

A 都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、港区白金1丁目を起点とし、本件地域に突き当たる世田谷区玉川2丁目を終点としている。

B 上野毛通りは、東急大井町線上野毛駅を越えたあたりで国道466号線(環状8号線)を横断し、國分寺崖線を急勾配で突っ切り、一気に都道大田調布線(多摩堤通り)に至っている

C さらに、多摩川に沿って、東京都側には都道大田調布線(多摩堤通り) が、神奈川県側には川崎市道幸多摩線が設置されている。

A 本件地域周辺の自動車交通量

@ 国土交通省は、一般都道府県道以上の路線を対象として全国道路交通情勢調査(交通センサス)を実施しており、東京都内の路線の調査結果は、東京都建設局道路建設部が交通量調査報告書として刊行している。最新の調査は平成11年度に実施されたものである(なお、本年が次の調査年度として予定されている)。

平成11年度全国交通情勢調査による本件地域周辺の幹線道路における平日、休日の各12時間交通量(午前7時から午後7時まで)を本件地域に最も近い測定地点でみると下記表‐1のとおりとなる。なお、この自動車交通量には、自転車、バイク類は含まれていない。

表‐1 平成11年度全国交通情勢調査における自動車交通量(単位:台)

路 線 名

測定地点

平 日

休 日

国道246号 ( 玉川通り )

世田谷区瀬田2−31

22,251

49,007

国道466号 ( 第3京浜 )

玉川IC〜野毛歩道橋

57,327

50,624

都道古川橋二子玉川線 ( 駒沢通り )

世田谷区深沢5−17

10,108

8,844

A また、世田谷区も独自の交通量調査を実施している。その調査方法は、調査地点を決め、そこで10分間測定を実施するというもので、それにより得られた交通量を6倍した数値を交通量調査結果として公表している(甲31、23頁〜)。平成15年度に実施された調査における、本件地域周辺の幹線道路の結果は下記表‐2のとおりである。なお、表‐2における自動車交通量は、小型車、大型車T、大型車Uの交通量を合算したものである。

表‐2 交通量調査結果(単位台/日)

路 線 名

測定地点

交通量

国道466号 ( 環状8号線 )

世田谷区瀬田2−27

64,878

B 本件地域周辺の渋滞の発生状況

本件地域周辺の幹線道路はいずれも渋滞がひどく、渋滞の発生状況は次の とおりとなっている。

@ 渋滞の距離による一般道路の路線別交通渋滞発生状況「ワースト50路線」を見ると、本件再開発計画が認可された平成12年度では、環状8号線外回りが6位で6.3キロメートル(平日平均)、同内回りが7位で6.1キロメートル、玉川通り上り方向が27位で2.6キロメートルとなっている(甲32)。

A 渋滞率による路線別交通渋滞発生状況「ワースト50路線」で見ると、同じく平成12年度で、玉川通り上り方向が28パーセント(平日平均)で7位となっている(甲32)。

B 玉川通りと環状8号線が交差する瀬田交差点は、平成12年度の交差点流入路別交通渋滞発生状況「ワースト50交差点」において、内回り方向が3位で1.59キロメートル(平日平均)となっている(甲32)。

C このように、本件地域周辺の幹線道路は、都内でも有数の混雑する幹線道路が集中している地域である。

(2)自動車交通量の増加

@ 環境影響評価の将来交通量予測の方法の問題点

@ 本件再開発計画にかかる環境影響評価は、推計年度を工事の完了後の平成22年度とし、「昭和63年度東京都市圏パーソントリップ調査」に基づく将来自動車OD表から推計した平成22年の地域別発生集中交通量及び開発交通量から対象地域を中心とした将来OD表を作成し、これを将来道路網に分配している(甲33、20頁)。

A 環境影響評価の将来交通量予測は、交通量推計地点を本件再開発地域のごく近くの7地点のみでしか実施しておらず、本件再開発計画によってあらたに生じた交通量や本件再開発地域の周辺へどのような影響を与えるのかという点については、全く考慮していない。

特に、周辺地域への影響を考慮するうえでは、本件再開発地域へのアクセス道路とされるべく、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)をはじめとする本件再開発地域周辺の幹線道路を拡幅あるいは延長する都市計画 が本件再開発事業の関連事業とされていることを重視すべきである。

A 駒沢通りをはじめとする周辺道路の整備計画(都市計画)

本件再開発計画に関連する周辺の幹線道路の拡幅、延長の計画(都市計画)は下記の表‐3のとおりである。この整備計画では、既存道路の拡幅の他に、本件再開発地域に突き当たっている都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)を延長して都道大田調布線(多摩堤通り)に接続する(補助第49号線)とともに、現在は都道大田調布線(多摩堤通り)に接続している上野毛通りを本件再開発地域(都市計画公園)に突き当たったところで終了させ新設の補助329号線によって本件再開発地域の北側と都道大田調布線を結ぼうとされている。

これらの周辺道路整備計画は、手続としては本件再開発地域と別個の計画とされてはいるものの、本件再開発によって増大する本件再開発地域に至る自動車交通を通行させる目的で拡幅、延長されるのであるから、その当否を判断するうえでは、本件再開発計画と一体のものとして考慮すべきである。

本件再開発地域の周辺では、これら幹線道路の拡幅、延長の計画の他に、さらに細街路5路線の拡幅・延長が計画されており、幹線道路とあわせ合計10路線で拡幅・延長が決定されている。この事実ひとつを見ても、本件再開発計画が、いかに多くの自動車交通量を本件再開発地域やその周辺に呼び込もうというものであるのか明かである。

表‐3 幹線道路拡幅・延長の計画

路線名(都市計画道路名称)

幅員現況計画

延長

都道古川橋二子玉川線 ( 駒沢通り・補助 49 )

16

約940

国道246号(玉川通り・放射4号)

約25

30

約160

都道大田調布線 ( 多摩堤通り・補助 125 号線 )

25 *1

約1040

新設道路(補助 329 号線)

約 7

16

約850

上野毛通り(区画道路7号)

12 *2

約530

*1 一部27.5メートルの計画

*2 一部15メートルの計画

B 幹線道路整備による潜在交通需要の顕在化

被告は、前項の道路拡幅、延長整備の目的を、「他の都市計画道路とあわせて道路網を形成することにより、地域交通の円滑化を図る」(甲34、8頁)とするが、幹線道路の整備がかえって自動車交通を増加させるということがイギリスの調査結果によって明らかとなっている。

@ イギリスでは、幹線道路の評価に関する常任諮問委員会( SACTRA )が、1994年(平成6年)5月に「幹線道路と交通の創出」( Trunk Roads and the Generation of Traffic )という報告書を提出した。

この報告書にかかる調査は、1986年(昭和61年)に完成したロンドンの外周道路 M25 が、予想交通量をはるかに上回る自動車交通量を負うこととなったため、道路建設がかえって自動車交通量を増大させるのではないかという問題意識で行われたものである。そしてその調査結果は、まさに問題意識のとおりであって、道路建設が誘発交通を生み出し、自動車交通量を増加させていることが明らかになったのである(甲35)。

A 東京都環境局が2000年(平成12年)3月に刊行した「東京都環境白書2000」は、前述の調査結果を紹介するとともに、この調査結果をふまえてイギリスの交通政策が道路建設を推し進める政策から、交通需要を抑制する政策に転換したことを詳しく紹介している(甲35)。

B 本件再開発計画の認可決定に先立って行われた環境影響評価の交通量予測は、このようなイギリスの研究結果を踏まえてはおらず、単に従前のパーソントリップ調査から将来 OD 表を作成したに過ぎず、その正確性には大いに疑問があると言わざるを得ないのである。

(3) 本件再開発地域周辺への影響

@ 周辺地域でも自動車交通量が増大

@ 先に述べたように、環境影響評価においては、本件再開発地域にごく近接した7地点で交通量予測をしているに過ぎない(甲33、21頁、26頁)。しかし、本件再開発地域周辺の幹線道路、特に国道466号線(環状8号線)及び国道246号線(玉川通り)は、都内でも有数の渋滞路線であり、両者 が交差する瀬田交差点の渋滞は深刻である。そのため、本件再開発地域の周辺は、幹線道路の渋滞を回避しようとする自動車交通が、周辺住宅地の細街路を抜け道として走行しており、細街路の自動車交通量が多くなっている。

A 都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、国道466号(環状8号線)を大田区方面から進行して国道246号(玉川通り)を経由して多摩川を渡り川崎市方面に向かう車両が、瀬田交差点の混雑を回避するために通行したり、都心方面から川崎市方面へ向かう車両が国道246号(玉川通り)の渋滞を回避しようとして通行するので、本件再開発によって新たな自動車交通量が生じると、更なる混雑が予想される。

さらに、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、都心方面から、既に渋滞が著しい国道246号(玉川通り)や環状8号線を通行することなく本件再開発地域に至る幹線道路であるから、本件再開発地域内の施設を利用するために通行する車両の増加も当然予測されるのである。

原告2,4,5,7〜19,21,23〜25,64〜66らはこの都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)沿道に居住している住民であるが、これら原告は自動車交通量増加による混雑や道路交通の危険を負担させられることとなるのである。

B 上野毛通り

上野毛通りも、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)同様、国道466号(環状8号線)を大田区方面から進行して国道246号(玉川通り)を経由して多摩川を渡り川崎市方面に向かう車両が、瀬田交差点の混雑を回避するために通行したり、本件再開発地域を目的地とする車両が通行することが予想され、自動車交通量の増加が懸念される。

A二子橋への自動車交通の集中

本件地域を通行する車両は、本件再開発地域を目的地とする車両の他に、本件再開発地域周辺を経由して他の目的地へ至る通過交通量の割合も高いと考えられる。そして、通過交通量のかなりの割合が、多摩川を渡って東京都と神奈川県の都県境を移動するものと考えられる。

本件再開発地域周辺で多摩川に架橋されているのは、国道466号(第3京浜)の多摩川橋、国道246号(玉川通り)の二子橋、国道246号支線の新二子橋の3橋である。しかし、国道246号支線はいわゆるバイパスとしての役割を果たしているため都道大田調布線(多摩堤通り)とは接続しておらず、新二子橋を利用しようとすれば、混雑の激しい瀬田交差点かあるいはその近くを経由しなければならない。また、国道466号(第3京浜)は有料道路であるから、多摩川橋を利用しようとすれば、交通料金を負担しなければならない。そのため、現在でも国道246号(玉川通り)の二子橋の混雑は激しく、都道大田調布線(多摩堤通り)は二子橋を通行しようとする車両により渋滞を生じている。

それに加え、本件再開発地域を目的とする自動車交通量が増加すれば、さらに二子橋に自動車交通量が集中し、国道246号(玉川通り)や都道大田調布線(多摩堤通り)の渋滞はもちろん、原告らの居住する本件再開発地域周辺の細街路も自動車交通量が増加することとなる。

(4) 本件再開発地域周辺における道路交通の危険性

@細街路の自動車交通量の増加

本件再開発地域周辺の幹線道路はいずれも都内でも有数の渋滞路線である。特に国道466号(環状8号線)及び国道246号(玉川通り)渋滞は深刻であり、両者が交差する瀬田交差点は常に渋滞する交差点となってしまっている。そのため、本件再開発地域の周辺は、幹線道路の渋滞を回避しようとする自動車交通が、周辺住宅地の細街路を抜け道として走行しており、周辺住民の生活道路である細街路の自動車交通量が多くなっている。細街路を走行する自動車交通量は、カーナビゲーションシステムの普及によりますます増加するものと予想される。

本件再開発によって、本件再開発地域周辺の自動車交通量が増加すれば、それにも増して細街路を通行する自動車交通量が増加し、原告ら周辺住民の通行の安全と健康が脅かされることとなる。

A本件地域の地形的特徴から生ずる危険

本件再開発地域は、多摩川川岸に位置するが、その近くまで国分寺崖線が迫っている(甲36)。多摩川の川岸沿いには、都道大田調布線(多摩堤通り) が通り、國分寺崖線の崖上には国道466号(環状8号線)が通っている。

都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、国道466号(環状8号線)から国分寺崖線の2つの山に別れた谷の部分を、崖上の国道466号(環状8号線)から自然の地形に沿ってカーブを描きながら本件再開発地域へ通じている。上野毛通りは、国分寺崖線を切り通して、崖上の国道466号(環状8号線)から急勾配で多摩川川岸の都道大田調布線(多摩堤通り)に至っている。なお、本件再開発計画の関連事業として、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)を都道大田調布線(多摩堤通り)に接続し、上野毛通りが本件再開発地域(都市計画公園)に突き当たって終了する計画であることは前述のとおりである。

都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)、上野毛通りは、いずれも本件再開発で新たな自動車交通量の負担を負うこととなるが、国分寺崖線から多摩川に向けて急勾配で下る道路に多大な自動車交通量を負担させることは、歩行者や自転車の通行が交通事故の危険にさらされ、交通の安全が著しく脅かされることとなる。特に原告2,4,5,7〜19,21,23〜25,64〜66らが生活道路としても使用する都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、道路の両端を均等に拡幅するのではなく、片側に偏って拡幅することにより道路中心線が変動して道路がより直線化し、さらに急勾配となるものと考えられ、より危険になることが予測される。

(5) 増加が予測される自動車交通量の内容

これまで、本件再開発によって自動車交通量が増加し、既に生じている交通渋滞や混雑が悪化し、さらには交通の安全が脅かされると述べてきた。ここで強調すべきことは、原告ら周辺住民にこのような被害を生ずるところの増加が予測される自動車交通量は、原告ら周辺住民によって発生するものではなく、買い物客など本件再開発地域に建設される施設を利用する者や本件再開発地域に商品等を搬入する物流によって発生するということである。原告ら周辺住民は本件再開発によって何ら利益を受けないにもかかわらず、そこから生じる負担のみを被るのである。さらには、公金を投入することによる税負担までさせられることになる。

2 大気汚染の悪化

(1) 本件再開発地域周辺の概要

@ 本件再開発地域周辺の地形の特徴

本件再開発地域周辺は、国分寺崖線の斜面が多摩川川岸近くまで迫っており、国分寺崖線の斜面から多摩川川岸まで、わずか500〜600メートル程しかない。本件再計画は、そのわずかな平地に計画されている(甲36)。

A 幹線道路の現在の位置関係

国道466号(環状8号線)は国分寺崖線の崖上台地部分を通り、多摩川の川岸沿いを通る都道大田調布線(多摩堤通り)とほぼ平行の位置関係にある。

国道466号(環状8号線)と都道大田調布線(多摩堤通り)を結ぶのが上野毛通りである。上野毛通りは、崖上の国道466号(環状8号線)から国分寺崖線を切り通して急勾配で都道大田調布線(多摩堤通り)に至っている。

都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)は、国道466号(環状8号線)から国分寺崖線の2つの山に別れた谷の部分を通って本件再開発地域へ通じている。

(2) 現在の大気汚染状況

本件再開発周辺の地域では、国分寺崖線の台地部分で発生した自動車排気ガスが都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)や上野毛通りなどを通って国分寺崖線の崖下へ運ばる。そして、崖下で発生した自動車排気ガスとともに多摩川からの川風に吹き戻され、国分寺崖線の崖下部分に停滞している。

本件再開発地域周辺の大気汚染状況については、調査が行われていない。最も本件再開発地域に近い測定地点は、世田谷区が世田谷区玉川等々力3−4−1所在の玉川総合支所屋上に設置している玉川測定室である。玉川測定室における二酸化窒素の98パーセント値は、平成15年度の0.045ppmと、辛うじて環境基準(1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmのゾーン内又はそれ以下であること)を達成しているに過ぎない。浮遊粒子状物質に至っては、環境基準(1日の1日平均値が0.10r/ m 3 以下でありかつ1時間値が0.2r/ m3 以下であること。)を達成していない(甲31、32頁)。

ここに、前述のように新たな自動車交通量が増加すれば、原告ら周辺住民の受忍限度を超えてさらに大気汚染が悪化することは必至である。

(3) 環境影響評価における大気汚染状況の予測の問題点

本件再開発計画認可決定に先立って行われた環境評価(以下「本件環境影響評価」という)は、本件再開発計画が実行されても大気汚染状況に悪影響を与えず環境基準を達成すると結論づけているが、そもそも本件環境影響評価には以下に述べるような問題がある。

@ バックグラウンド濃度の設定方法の問題点

@ 本件環境影響評価は、本件再開発計画が大気中の二酸化窒素濃度に与える影響を判断するにあたり、バックグラウンド濃度の設定を「東京都自動車排出窒素酸化物総量削減計画」が二酸化窒素の環境基準を平成12年度に概ね達成し、平成17年度には全ての測定局で達成するとしたことを前提にして設定している(甲33、50頁)。

A しかし、平成12年度は、一般大気測定局44局、自動車排気ガス測定局35局、計79局の測定局のうち環境基準を達成したのは56局で、達成率は71パーセントであった(甲37)。

B また、平成15年度は、一般大気測定局44局、自動車排気ガス測定局34局計78局のうち環境基準を達成できたのは61局で、達成率は78パーセントに過ぎない(甲38)。

C このような状況であるから、平成17年度に全ての測定局で環境基準を達成することは不可能である。そして、そのような不可能な前提に基づいたバックグラウンド濃度の設定や環境影響評価は根拠がないと言わざるを得ない。

A 浮遊粒子状物質につての予測・評価の欠落

@ 昨今、ディーゼル排気ガスによる健康影響が問題視され、気管支ぜん息や肺癌など呼吸器疾患との因果関係についても研究が進められているところである (甲35、19頁〜)。そして、東京都は、2003年(平成15年)10月1日から厳しい排出ガス規制を達成していない車両が都内へ侵入することを禁ずるディーゼル車規制を実施している。

A このように健康被害への影響が懸念されるディーゼル排気ガスに含まれる物質は、ディーゼル排気微粒子というが、大気中に含まれるディーゼル排気微粒子を推し量るには、浮遊粒子状物質の測定が不可欠である。

なお、前述のように、世田谷区が設置している玉川測定室では、浮遊粒子状物質の環境基準を達成し得ていない。

B 健康被害への影響が懸念されるディーゼル微粒子を推し量る浮遊粒子状物質の予測・評価を全く行っていない本件環境影響評価には、重大な欠陥があると言わざるを得ない。

B 予測地点の問題(甲33)

さらに、本件環境影響評価は、本件再開発地域の外周地点や本件再開発地域に極めて近い地点の計5地点で大気質への影響を予測しているにすぎない(甲33、21頁、86頁)。しかし、本件再開発地域周辺の幹線道路の自動車交量が増加することが当然予測されるのであるし、また、本件再開発地域周辺の大気汚染物質は、国分寺崖線の崖下部分に停滞するのであるから、原告2,4〜27,61,64〜66らが居住する都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)沿道などのような本件再開発地域周辺の幹線道路沿道や国分寺崖線崖下部分の住宅地においてこそ大気質への影響を予測するべきである。このように、周辺地域の本件再開発によって最も重大な影響を受けるものと予測される地点における大気質への影響を予測することを怠った本件環境影響評価には、重大な欠陥があると言わざるを得ない。

3 東京急行二子玉川駅、東京急行田園都市線、東京急行大井町線の混雑と過密ダイヤによる鉄道輸送の危険性

(1) 現在の混雑状況

@ 二子玉川駅の乗降人員

@ 東京急行二子玉川駅は、渋谷駅と中央林間駅とを結ぶ田園都市線と、大井町駅と二子玉川駅とを結ぶ大井町線の2路線が乗り入れている。

A 2004年度の東京急行田園都市線二子玉川駅の1日平均乗降人員は、6万2487人である。そのうち、定期を使用している者は3万1735人、定期外の者は3万752人となっている。乗降人員は前年度と比べると、4.6パーセント増加している(甲39)。

B 2004年度の東京急行大井町線二子玉川駅の1日平均乗降人員は、3万2296人で、そのうち定期を使用している者は1万4717人、定期外の者は1万7579人である。この乗降人員は前年度比4.9パーセントの増加である(甲39)。

C すなわち、二子玉川駅を利用する乗降人員は、平均して1日約9万5000人である。そして、この統計資料から、二子玉川駅を利用する乗降人員の半数以上が定期を利用しない買い物客などであること、かなり高い増加率で乗降人員が増加していることが明らかである。

A 東京急行の運行ダイヤ

@ 東京急行田園都市線二子玉川駅の運行ダイヤは、平日上りのピーク時間は午前8時台で、この時間帯には27本のダイヤが組まれている(甲40の1)。また、平日下りのピーク時間は午前9時台で、この時間帯に27本のダイヤが組まれている(甲40の2)。これらは、ほぼ2分に1本の割合で電車を運行させる過密ダイヤである。

A 東京急行大井町線二子玉川駅の平日上りの運行ダイヤは、午前7時及び午前8時がピークで、それぞれ17本のダイヤが組まれている(甲40の3)。

B 東京急行は、これまで前述のような過密ダイヤを組むだけではなく、列車の長編成化をはかるなど混雑緩和に努めてきたが、混雑緩和には至らず、特に東京急行田園都市線は民営鉄道の中でも高い混雑率となっている(甲41)。

(2) 本件再開発による人口増加及び集客の予測

@ 本件環境影響評価は、本件再開発によって増加する居住人口は1戸あたり3.6人と予測している(甲33、24頁)。そして、建築が予定されている住戸は約950戸であるから、居住人口の増加は約3420名と推計していることになる。

A また、集客数は、平日4万1700人、休日5万8700人と予測しており、この他に業務人口が5100人増加することも予測している(甲33、24頁)。

(3) 予測される混雑

@ 二子玉川駅利用客の増加

前項のように、本件再開発によって居住人口の増加が約3420人、本件再開発地域の集客数、業務人口が平日で4万6800人、休日で6万3800人と予測されている。

もちろん、この全てが東京急行二子玉川駅を利用するわけではないが、そのおよそ半数が利用するとしても、平日で約2万5000人、休日で約3万4000人が新たな利用者となる。既に1日平均約9万5000人の乗降人員がある二子玉川駅にとって、およそ3分の1の増加は多大な負担であり、安全な駅施設の利用が脅かされることとなる。

また、東京急行田園都市線、東京急行大井町線ともに既に混雑している路線であるが、利用客が増加することによって、更なる混雑を強いられることとなる。

A 複々線化の問題点

東京急行電鉄はこのような利用客の増加を見越して、田園都市線の複々線化をはかるとともに大井町線の利便性を高めここへ利用客を誘導することによって輸送量を増加しようと計画している(甲42)。その一環として東京急行大井町線等々力駅を地下化する計画のようであるが、等々力駅の近くには23区内でも有数の自然環境を誇る等々力渓谷広がっている。等々力駅の地下化工事(深さ10メートル強、長さ数100メートルのコンクリートの箱)によって、等々力渓谷の流れが涸渇したり、樹木が枯れたり、根腐れしたりするおそれがある。自然環境を守るという点からも、地下化をともなう計画には問題 がある。

また、急行電車の増発も計画されているようであるが、列車の運行には一定の間隔が保たれなければならないのであるから、急行電車が増発されれば必然的に普通電車の運行本数が減じることとなる。原告2〜5,7〜19,21,23〜25,28〜37らの生活環境は東京急行大井町線上野毛駅を中心として成り立っており、普通電車のみしか停車しない上野毛駅において運行本数が減じることとなれば、電車の待ち時間が増えるだけではなく、現在以上の混雑を甘受しなければならなくなるのである。

B ダイヤ増発の危険

さらに、混雑緩和の方策として東京急行電鉄はさらなるダイヤ増発を考えているようであるが、前述のように、東京急行田園都市線及び東京急行大井町線は既に過密ダイヤで運行されているのあるから、さらなる電車の増発は不可能である。仮に電車の増発をすることともなれば、安全な鉄道輸送の実現が困難になることは、JR西日本で発生した鉄道事故の経験からも明かである。

4 圧迫感

(1) 本件再開発計画の特徴

@ 周辺地域の特徴

@ 本件再開発計画は、再開発計画地のごく一部が商業地域にかかるものの、用地のほぼ3分の1が近隣商業地域、3分の2が第1種住居地域となっている。周辺も、第1種住居地域や第1種低層住居専用地域に囲まれている(甲19の2、同19の3)。

実際も、本件再開発地域の周辺は低層の建物を中心とした住宅地となっている。

A また、本件再開発地域は、多摩川の北側川岸に位置している。

A 本件再開発計画

本件再開発地域に建築が予定されているのは、地上4階建高さ9メートルから地上46階高さ151.1メートルまでの全7棟の高層ビル群である (甲34、19頁)。

(2) 原告らが被る圧迫感

本件再開発地域は、多摩川の北側川岸に位置するのであるから、周辺住民からすると多くの住居の開口部が設置されている南側に位置する。とすると、これまでは低層の建物を中心とした住宅地で広く空が望めたのに、本件再開発によって出現した高層ビル群が、周辺住民の空を塞ぎ、周辺住民は視界のなかに常に高層ビル群を見て生活することを強いられることとなる(甲43、同44)。

このように、本件再開発計画は周辺住民に強い圧迫感を与える計画である。

良好な景観の破壊

(1) せたがや百景

@ 百景選定の趣旨と経過

世田谷区は、1984年(昭和59年)、区民の推薦、投票に基づき世田谷百景を選定した。かかる百景を選定するに至ったのは、「区民が『好ましい』と感じる風景の中で生活し、活動してゆくことを願って、そのような風景を守り育てる、あるいはつくってゆくことに心を砕」き、きめ細かなまちづくりを進めるところにあった(甲45、23〜29頁)。

そして、投票用紙1枚に5景まで記入できることとし、9万2000枚もの投票用紙を回収して上位100位までをせたがや百景として選定したのである。

A 本件再開発地域周辺のせたがや百景(甲45)

本件再開発地域の周辺でも、次の5ヶ所が選定されている。

@ 75 「多摩川の緑と水」

多摩川は、世田谷区内に残された最大の自然景観で、河川敷の空間と周辺に残された緑は、周辺住民や世田谷区民のみならず、都民や隣接する神奈川県民の憩いの場ともなっている。

A 76 「新二子橋からの眺め」

国道246号支線に架橋された新二子橋からは、世田谷と対岸の川崎に 空を遮る物のない大きな眺望が広がっている。

B 77 「兵庫島」

「兵庫島」という地名は南北朝時代の故事に由来しており、周辺は区民らのレクリエーションゾーンとして親しまれている。

C 78 「多摩川沿いの松林」

世田谷区玉川1−1付近では、多摩川沿いに黒松の松林が残されている。かつて、黒松の林は、多摩川の堤によく見られる代表的な風景であったが、現在残されているのはこの付近だけである。

D 79 「多摩川土手の桜」

多摩川の土手に設置された都道大田調布線(多摩堤通り)の世田谷区玉川1丁目付近から同区野毛3丁目付近までは、桜の並木となっている。川岸の緑とのコントラストが美しい景観となっている。

(2) 地域風景資産

@ 地域風景資産選定の意義

さらに世田谷区は、1999年(平成11年)3月に制定した「世田谷区風景づくり条例」に基づき、2001年(平成13年)8月5日から「地域風景資産」の選定をスタートした。この「地域風景資産」とは区民の住む身近な地域の中で、大切にしたい歴史や環境、生活・文化などを表している風景を構成する要素を言い、これらを地域住民で共有し、風景づくりを推進する手がかりとしようというものである(甲46)。

地域風景資産に選定されるには、@風景としての資産の価値があることA地域の共感・共有があることB風景づくりにつながるアイディアがあることCコミュニティづくりにつながる可能性があること、の4つの条件を原則として満たしていることが必要である。

A 富士見橋

世田谷区上野毛3丁目の東京急行大井町線に架けられた富士見橋は、選定人による現場訪問や選定人意見交換会、公開選定会などの手続を経て、2002年(平成14年)12月に地域風景資産のひとつに選定された(甲 46)。この富士見橋からは、多摩川の上空に雄大に広がる富士山を眺めることができる。

(3) 関東の富士見100景

国土交通省関東地方整備局は、「美しい関東づくり」の一環として、富士山への良好な眺望を得られる地点について、周辺景観の保全や活用への支援を通して、美しい地域づくりの推進に寄与することを目的として、関東の富士見100景を選定した。

前項の富士見橋は、2004年(平成15年)12月に、関東の富士見100景のひとつにも選定された(甲47)。

(4) 世田谷区風景づくり条例

@ 本件地域の景観の特徴

世田谷百景、地域風景資産、関東の富士見100景から明らかなように、本件再開発地域周辺の景観の特徴として、@多摩川の自然A大きく広がった空と富士山B国分寺崖線の緑をあげることができる(甲48、同49)。

A 条例の制定

世田谷区は、このような景観を守るために、1999年(平成11年)3月、「世田谷区風景づくり条例」を制定した。

世田谷区風景づくり条例の前文は、「風景は、風土と文化や歴史の表れであり、そこに生活する人々によって創造され、受け継がれてきたものである。それゆえ風景は、そこに生活する人々のまちへの愛着を強め、地域の個性や価値観を形成するものであり、そこに生活する人々の貴重な共有財産である。」としたうえで、「次代を担う子どもたちがふるさと世田谷に愛着と誇りを持てるように、更なる風景づくりを進めていくことが、私たちの役割である。」と宣言している(甲50)。

そのうえで、第3条に、区民が積極的に風景づくりに努める責務(第1号)、風景づくりの妨げになる行為の禁止(第2号)、区と協力して風景づくりの推進に努める責務(第3号)を区民の責務として定めている(甲50)。

そして、事業者に対しては、第4条で、風景づくりの妨げになる行為の禁止(第1号)、積極的に風景づくりの推進に努める責務(第2号)、区と協議して風 景づくりの推進に努める責務(第3号)を定めている。さらに第9条では、国等が公共施設を整備するときは、風景計画との整合や公共施設風景づくり指針の遵守を区長が要請するものとしている(甲50)。

(5) 本件再開発計画による景観の破壊

しかし、本件再開発計画や関連事業が実施されると、本件再開発地域周辺の特徴ある景観が破壊されることとなる。

すなわち、本件再開発地域に、地上46階高さ151.1メートルを最高とする全7棟の高層ビル群が建築されれば、本件再開発地域のほぼ全域から多摩川の方向を望むと、常に高層ビル群が視界に入り、空が大きく塞がれることになってしまうのである。また、前述の富士見橋からの景観も大きく変貌し、富士山の雄大な眺めは失われて超高層ビルの間から辛うじて富士山が顔をのぞかせるような事態となってしまう。

また、関連事業として周辺道路の整備計画(都市計画)が実施されれば、例えば、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)の拡幅によって上野毛ハイム沿い歩道の欅並木の保全が危ぶまれる。しかし、これは、世田谷区が保存を訴えている国分寺崖線の緑を減少させることになるだけではなく、周辺の環境の悪化や、さらには住民の心の拠り所となり安らぎを与えている周辺地域のシンボルを失わせることになるのである。

6 眺望の途絶

(1) 本件再開発地域周辺における住宅の販売

本件再開発地域周辺の国分寺崖線に位置する住宅は、国分寺崖線に広がる緑との調和を配慮して開発・建設されている。そして、それらの住宅の資産価値を高める要素として、国分寺崖線の緑とともに、南側に広がる多摩川や、富士山、丹沢山系の眺望がある。

実際にも、例えば世田谷区上野毛2−18−8所在の上野毛ファーストプレイスの販売用パンフレットには、「多摩川越しに富士を一望する緑の丘、その深き潤いに佇む見晴らしの邸」(甲17、5頁)、「国分寺崖線の傾斜を 利用し、多摩川の潤い、富士の頂きを遠景に豊かな緑を暮らしの借景として望められるよう多摩川に向いたアリーナ状としました。」「多摩川の黄昏、夏の風物詩、遠景の富士、暮らしは心奪われる景観とともに・・・」、「ここは地上レベルに近くありながら、眺望を叶えた、空と地を抱く私邸です。」(甲17、6頁)などとあるように、これらの眺望が住宅の資産価値の重要な要素となっていることをうたっているのである。

(2) 本件再開発計画による原告らの眺望権の侵害

特定の場所から良好な眺望を享受する権利(眺望権)は、前項のような財産権的性質の他に、それによって安らぎを得られるなど、人格的性質を有するとされている。

原告37,59,60らは、前項の上野毛ファーストプレイス内の住宅を所有あるいは居住している。原告2,4〜20,61,64〜66らは、世田谷区上野毛3−16所在の上野毛ハイム内の住宅を所有あるいは居住している。原告28〜36らは、世田谷区上野毛2−13,2−17付近の富士見住宅内に戸建て住宅を分譲所有あるいは居住している。これら原告はいずれも国分寺崖線に建設された集合住宅あるいは戸建て住宅に居住しているのであって、南側開口部に広がる多摩川や、富士山、丹沢山系の眺望を享受している。

しかし、本件再開発によって高層ビル群が建築されると、その眺望が途絶し、重大な権利侵害を生ずることとなる。

7 地下水涸渇や地盤沈下の危険性

(1) 本件再開発地域周辺の地質と本件再開発計画による地盤の掘削

本件再開発地域周辺の地質は、沖積砂礫層のうえに沖積砂質土層が堆積し、さらにその上を盛土層が覆っている(甲34、82頁)というもので、必ずしも安定した地質層であるとは言い得ない。

本件再開発計画は、この地質の上に高層ビル群を建築しようというもので、高層ビル群を支えるため、地盤面から最大29mの掘削する予定である(甲33、167頁)。不安定な地質層に本件再開発を実施することは極めて危 険である。

(2) 地下水涸渇や地盤沈下のおそれ

本件再開発地域周辺の地下水脈は、国分寺崖線に沿って多摩川川岸の低地部分へ流れ込み、低地部分では、本件再開発地域を多摩川の流れに沿って北西方向から南東方向へ向かって流れている(甲34、280頁)。

本件再開発計画に先立って実施された環境影響評価では、「地下構造物設置後には、地下水は地下構造物の周囲を回り込んで流れると推測される。このため、掘削工事及び地下構造物の設置に伴う地下水脈の遮断はほとんどないと予測する。」としている(甲51、47頁)が、かかる評価はそもそも十分な調査すら放棄したものであって、説得力のある資料に基づいて地下水脈の遮断による地下水涸渇のおそれが無いとしているのではない。地下水涸渇のおそれは否定できないのである。

また、不安定な地質層に存する地下水脈が涸渇した場合、それによって地盤沈下を生じるおそれもある。

8 災害時の危険性

(1) 地震による倒壊の危険

関東地方で大規模地震が発生する可能性が高いことはもはや周知の事実である。ところが、本件再開発計画は、前述のとおり川岸の不安定な地盤を最大29メートルも掘削し、そこに高さ最高約151メートルの高層ビル群を建築しようという計画である。このような計画では、兵庫県南部地震のような規模の地震が発生した場合に建物倒壊のおそれがあることを否定できない。

(2) 災害時の避難路や避難場所が確保されない危険性

前述のように、本件環境影響評価は、本件再開発によって増加する居住人口を約3420名、業務人口を5100名、集客数を平日4万1700名、休日5万8700名と予測している(甲33、24頁)。ちなみに、本件再開発地域周辺の、西を国道246号(玉川通り)、北を国道466号(環状8号線)、東を国道466号 (第3京浜)、南を多摩川で囲まれた地域(玉川1〜3丁目、上野毛2、3丁目、瀬田1、2丁目、野毛3丁目)の人口は1万6643名(2005年9月1日現在、甲52)であるから、既存人口のおよそ3倍から4倍程度の人口を本件再開発地域周辺が新たに抱え込むことになるのである。

そして、休日を例にとると、周辺住民に加え新たに6万5000名を加え、8万名以上の人々が安全に避難するルートや避難場所が確保されなければならないのである。

ところが、本件再開発地域周辺のように多摩川川岸からわずか500〜600メートルのところから国分寺崖線が切り立って平坦な土地が少ない本件再開発地域周辺には、8万名以上もの人数を収容しうる避難場所の確保は困難であるし、これだけの人数が安全に避難しうる避難路の確保も覚束ないのである。

9 関連事業による被害

本件再開発計画には、関連事業として周辺道路の整備計画(都市計画)が存することは前述のとおりである。これらの関連事業によって、自動車交通量の増加やそれによって引き起こされる大気汚染の悪化等の被害については既に述べたとおりである。

さらに、関連事業の用地収用等により、周辺住民には重大な被害を生じるおそれがある。例えば、原告2,4〜20,61,64〜66らが居住する世田谷区上野毛3−16所在の上野毛ハイムは、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)の沿道に存するが、都道古川橋二子玉川線(駒沢通り)の拡幅によって、マンションの生命線たる駐車場の一部やゴミ置き場をはじめとして、合計約200坪を失うこととなる。これは、上野毛ハイムの全敷地の7パーセントにあたる。とすると、来るべき建て替えの際に、収容後の敷地面積から算出される建ぺい率や容積率では、現在の居住面積を確保できないだけではなく、集合住宅の全世帯が入居することが可能な建物を再築することができなくなり、建て替えが事実上不可能となるおそれもある。

また、道路拡張に先立ち周辺の用途地域が変更されている。これによって居住 環境が悪化するおそれがある。

第6 差し止め請求権の法的根拠

1 人格権

生命、健康で快適な生活は憲法第13条の幸福追求権、及び第25条の生存権の定めにより、国民に最大限保証されるものである。

そしてこれらの規程が直接ないし間接に司法関係に適用され、あるいは司法法規の解釈指針となる結果、民事訴訟法の法理と手続きに従って、人格権が絶対権として保護されることとなる。

人格権を根拠に公害被害等について差し止めうるとの考え方は、今や学説上確定した理論であり、判例上も定着したものとなっている。

本件再開発事業は原告らのかかる人格権について大気汚染の拡大により、深刻かつ回復困難な侵害をもたらすものであるから、その実現のために本件のような違法な再開発事業の差し止めを請求しうるのである。

2 環境権

環境権は良好な自然環境を享受し、これを保全する権利である。

自然環境は、人間が生物として、また社会的存在として生きていくための生活環境の中核となるものである。

これは一般的な人格権同様、憲法第13条、及び第25条により保証されるものである。さらに、1993年制定の「環境基本法」はその第3条において「環境の保全は、環境を健全で恵豊かなものとして維持することが、人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており、人類の存続の基盤である限りある環境が人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じててきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で、恵ゆたかな環境の恵沢を享受すると共に人類の存続の基盤である限りある環境が将来にわたって維持されるように適切に行わなければならない。」と規定する。

さらに川崎、大阪、東京の各環境基本条例においてもその権利性が定められている。

本件再開発事業は、前述のとおり、原告らの環境権についても深刻かつ回復困難な被害を及ぼすものであるから、原告は環境権に基づいて本件再開発行為を差し止めることができる。

住民の「まちづくり参画権」

さらに住民は自らの居住環境について単に権利侵害を受ける危険性が明らかになる場合にそれを差し止めるという防衛的、消極的権利に止まらず、昨今は積極的に「居住環境としての総合的、有機的空間総体としてのまちづくりについて主体的に参画する権利」の理念の認識が進み、様々な建築紛争、都市計画事業、再開発事業への反対運動、景観訴訟などの運動の高まりを通じ、法令、条例制定などの立法作業を経て、次第に市民権を確保してきている。

この流れは、本件再開発事業の検討が始まった、昭和57年頃以降、バブル経済下における、経済効率性至上主義の価値観からすると重大な社会情勢の変化である。すなわち、「まちづくり」は本来住民が主体として自分達のまちづくりについてプランを出し合い、土地所有者の経済的な有効利用という観点だけからの無秩序な建築を規制し、総合的な生活、文化、歴史、自然環境、景観等を護り、これらの総合的な拠点として発展させていくべきものという理念である。

平成16年に制定された、「景観法」には以下の通りその崇高な理念が高らかに明記されている。

「同法第2条

@良好な景観は、美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の想像に不可欠なものであることに鑑み、国民共通の資産として、現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう、その整備及び保全が図らなければならない。

A良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動との調和により形成されるものであることにかんがみ、適正な制限の下にこれらが調和した土地利用が成されるなどを通じて、その整備及び保全が図られなければならない。 以下略」

また、平成17年4月1日に告示された「世田谷区のまちづくり条例」はまさに先進的な取り組みとして住民参加のまちづくりの実現を制度化させたものである。ここでは「水と緑の風景軸」としてまさに当該再開発地域こそがその対象であるべき、「多摩川、野川に添って続く国分寺崖線とその周辺」を世田谷区の財産として未来へ残していこうとするものである。

国の法律、条例でも、経済的な有効利用重視から、それを制限してでも「まちづくり」を重視する大きな価値観の転換が法律で明確に規定されのである。

国民にとってかかる自然、歴史、文化、経済活動の調和によって形成されるまちの良好な景観はまさに国民共有の資産として享受する権利があり、それが著しく損なわれようとしている場合、その被害が深刻かつ回復困難な場合にはこれを差し止める請求権を有していると考えられる。

このように住民がまちづくりに対し、その自然、歴史、文化、景観などを国民の共有財産として有していることから、積極的に参画していくことが権利として当然であるという理念は、これら新しい法律、条例の立法によりことさらに新たに創設されたものではなく、既に人格権や環境権と同じく、憲法13条、25条に基づき、従来から認めらていた権利であり、都市再開発法の中にもその権利性の根拠が明白に示されている。

すなわち、その目的が公共の福祉に寄与する再開発というまちづくりについては、住民は計画内容を十分に知り、意見陳述をする機会を得られている。また一方で、その事業に一定の公共性が認められ、公益に資する事業の遂行が成される場合には、住民も公金の支出という形で間接的とはいえ、経済的な負担を負うのであり、住民にとっても当事者たる深い利害関係を有するものであるから、本来であれば、原告らの住民の差し止めの請求も、都市再開発事業の経過の中で、十分に斟酌されその意見の反映したまちづくりを実現するべきなのである。

しかしながら、一方で、実際の再開発事業においては、往々にして住民の意見を十分に反映することなく、「土地の高度利用」という経済効率が重視されて運用されるきらいがあった。本件再開発事業もまさにそうである。

ここで今一度、都市再開発法に定める目的の公益性という本来の立法趣旨に立ち戻れば、本件再開発事業のような、もっぱら、公共の福祉に寄与する目的を欠き、住民の権利を著しく侵害する事業については住民はその差し止めを請求できるのは都市再開発法の立法趣旨に照らしても当然といえる。

4 差し止め請求権と行政行為との関係

都市計画事業や、再開発事業は種々の行政処分を前提に遂行されていることから、これに反対する地権者や周辺住民が、行政処分の取り消しを求める行政訴訟が起こされてきたが、行政法が昨年42年ぶりに改正されたとはいえ、「行政処分の取り消し」については、未だに原告適格、出訴期間、広い裁量権、などの点から、極めて制約されており、たとえ、取り消しを認める判決が出た場合においても、それによりさらに進行中の工事の差し止めや、原状回復を義務づけるものではないとの判断が出るなど、実効性に乏しいもので、真に違法な都市計画事業や、再開発事業を同法の立法趣旨に添った事業に転換させることは従来の判例状況においてはほとんど不可能であった。

(しかしながら、かかる困難な状況の中でも、住民の反対運動は積み重ねられ、原告適格や、処分行為性、事業の一体性などの判断で判例の解釈の拡大をかちとり、行政法も42年ぶりの改正が実現した。

住民のまちづくり参画権はこのように訴訟手続き法の中でも着実にその集積が評価されつつあるのである。)

しかしながら、本件のように再開発事業組合が施行者となる再開発事業は、実質的には被告らが当初から地区を設定し、基本計画、事業方針を立案し、主体的に勧めるものであり、都市計画決定や認可決定が出た後であっても、事業計画の変更の認可申請をしてその変更を得ることもできるのである。すなわち、違法な実態を覆い隠し、行政の正確な判断を妨害して、実質的に再開発都市法違反の決定や認可決定を得て、本件再開発事業を強行しようとする被告らの責任は重大であり、仮に行政庁がその違法な実体を看過して行政処分が出されたとしても、各行政処分は違法、無効であるというべきであり、行政の認可等により被告の行為の違法性を治癒するものでは ない。

そうだとすれば、事業施行者たる被告こそが、将来に向かって、これらの違法状態を治癒するように、事業方針、事業計画を変更する責任がある。この責任の追及は必ずしも、行政処分の取り消しの判決が不可欠なものではなく、本件民事訴訟の手続きにおいて、原告らが、被告に対し、都市再開発法違反の行政処分に基づいて、本件再開発事業を無理矢理に強行しないように本件再開発事業を差し止める権利を有するものである。

第7 結論

以上のとおりであるから、原告らは被告に対し、主文のとおりの判決を求めるため、本訴を提起した次第である。

以上

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